二酸化炭素の高濃度回収を実現する“CO 2 回収装置” 開発の現在地

二酸化炭素の高濃度回収を実現する“CO2回収装置” 開発の現在地

カーボンニュートラル社会を目指して、社会全体が脱炭素の動きが加速する中、脱炭素に関連する機器に各企業からの注目が集まっています。大陽日酸では昨年から、工場の排気ガス中に含まれる二酸化炭素(CO2)を回収できる“CO2回収装置”を2023年3月末にリリースし周知を図りました。今回はCO2回収装置の開発に取り組んだ、技術開発ユニット 山梨ソリューションセンター ガス分離開発部 機器開発課の山脇正也課長(以下、山脇)と同課の富岡孝文主任研究員(以下、富岡)に開発の経緯から、リリース後の状況、そして今後の展望について聞きました。


富岡主任研究員㊧と山脇課長


Q1:CO2回収装置の開発経緯と能力について教えて下さい
山脇:開発プロジェクトはリリースの2年前にあたる2021年からスタートしました。社会に必要なものを開発するのが私たちの役割です。社会的に2050年のカーボンニュートラルに向けた動きが加速する中、ニーズのある機器ということも理解していましたから、スムーズに開発段階へ進むことになりました。ただ、技術的にこれまでにない技術を新たに開発することよりも、これまで培ってきた技術をうまく活用して開発する方が、より短い時間でリリース段階まで到達することができます。そこで、空気を分離することにも活用されている吸着技術を採用し、CO2回収装置の開発を始めました。
富岡:しかし、課題もありました。どこのマーケットをターゲットにするかです。吸着技術は、原料となる排気ガス中に含まれるCO2の濃度が薄い場合、CO2の濃度を高めていくことが得意ではありません。そこで十分に市場規模があり、排ガス中のCO2濃度が比較的高濃度(20%以上)になるCO2排出源を、社内のプロジェクトチームである「カーボンニュートラルビジネスプロジェクト」に協力を仰ぎ一緒に探しました。そこで見つかったのが、生石灰(CaO)を製造するために必要な石灰焼成炉でした。生石灰の製造は、主にCaCO3からなる石灰石を高温で加熱することで生石灰ができます。石灰焼成炉の排ガスには燃料となる化石燃料由来のCO2と原料由来のCO2を含むため、一般的な化石燃料の燃焼排ガスに比べてCO2濃度は高くなります。また、十分な市場性も見込めることから、私たちはここをターゲットに開発を進めていきました。
山脇:完成したCO回収装置はCO2濃度20~40%の排ガスから日量およそ10トンのCO2を回収し、回収後のCO2濃度は98%以上の高濃度に濃縮することができます。


小規模CO2回収装置(外観)

低濃度CO2回収に向けた開発を推進
Q2:CO2回収装置のリリース後、各企業からはどのような反応がありましたか? 
富岡:2023年の3月末にニュースリリースを公開してから程なくして、連日さまざまな企業から問い合わせがあり、改めて社会的な要請の高い商材なのだと感じました。その中から、装置導入に向けて、現在具体化のフェーズに入っているものもあります。当初ターゲットをニッチな業界にしていた割には、本当に多くの企業と様々なニーズや課題をお伺いすることができました。開発にとって生の声を聴くことができたのは今後の開発に向けて糧になります。
山脇:そこで数多く聞かれたのは、CO2濃度が薄い排ガスの回収にも当社のCO2回収装置が対応できるかどうかというものでした。先ほどもお話しましたが、吸着技術はCO2濃度の薄い排気ガスからCO2を濃縮し、高濃度にすることが苦手です。とは言え、今後、より大きなマーケットを狙うためには、低濃度の領域にも挑戦しなければなりません。そこで現在、CO2濃度20%未満の排ガスからCO2を回収するための技術開発を行っています。
社会課題の解決に取り組む
Q3:CO2回収装置の今後について教えて下さい
富岡:まずは現在進めている低濃度のCO2回収技術の開発を推進していきます。将来的には低濃度から中濃度まで幅広い排ガスのCO2濃度にフルラインで対応できるようにしたいです。また、現在取り組みの進んでいる案件を形にして、1つでも多くの実績を積み重ね、一歩一歩、着実に歩みを進めながら、社会のニーズにしっかりと応えていきます。
山脇:CO2回収はゴールではありません。回収したCO2をどうするのか?という課題が残っています。多くの企業からお問い合わせがあった背景の1つとして、当社が産業ガスの企業だからこそ、「回収したCO2を何とかしてくれるのではないか」という期待があったのだと思います。CO2の利活用などの実証実験は各所で行われています。それらの知見を吸収しながら、社会からの期待に応えられるよう、社会課題の解決に取り組んでいきたいと思います。