カーボンニュートラルな社会実現に寄与する水素燃焼技術 〜「水素—酸素バーナ」を開発〜

カーボンニュートラルな社会実現に寄与する水素燃焼技術
〜「水素—酸素バーナ」を開発〜

近年、環境保全の観点からカーボンニュートラルの実現に社会的な関心が高まっています。政府は2020年に「2050年までに国内の温室効果ガスの排出を全体として実質ゼロにする」という目標を掲げました。日本国内では年間約11.2億トンの二酸化炭素(CO2)が排出され、そのうち35%を産業分野が占めています。こうした各産業分野の中で、燃焼によって工業炉から排出されるCO2排出量の削減に貢献するため、大陽日酸株式会社では「水素—酸素バーナ」を開発しました。今回の開発について、山梨ソリューションセンターの酸素燃焼開発部開発課主任研究員の山口雅志さん(以下、山口)と同部技術課の諸熊晶さん(以下、諸熊)にお話を聞きました。

                            
                           諸熊担当                                   山口主任研究員

長年培った燃焼技術・知識を活かして
山口:産業ガスメーカーとしてさまざまな業界との連携を深めてきた当社は、特に酸素燃焼について長年培ってきた技術・知見を有しています。2014年から2019年には、内閣府主導の国家プロジェクトである「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」に参画し、アンモニアを工業炉燃料として使用する技術開発を行いました。一方で海外企業の水素燃焼技術の開発が進むなか、当社はいち早く、実績やノウハウを活かして、日本国内での水素燃焼技術の開発を先導し、各産業にとって有用で環境負荷の少ない製品を供給できるよう努めてきました。2020年頃からは、国内の大手ガラス会社とガラス溶融炉用の「水素—酸素バーナ」の共同開発を開始し、国内外での実証評価を経て、2022年に性能面で問題がないことを確認しました。このようなステップを経て、この度、「水素—酸素バーナ」の製品化に至りました。


「水素—酸素バーナ」を導入するメリット

諸熊:一般的にバーナは、鉄鋼・ガラス業界等の溶解・加熱・熱処理等を行う現場(工業炉)で広く用いられ、主に天然ガスなどの炭化水素燃料を使用しています。当社が開発した「水素—酸素バーナ」は、既存の炭化水素燃料を使用するバーナと同等の燃焼性能を発揮し、安定した操業を再現するだけでなく、従来の炭化水素燃料を水素に置き換えることにより、CO2排出量を限りなくゼロに近づけることができます。さらに、燃焼時に酸素を富化することで支燃性をコントロールし、通常の空気での燃焼と比べて、燃料の使用量を減らすことも可能です。また、設備面でも既存の天然ガス用バーナとの併用が可能で、今後導入を検討される場合などでは、資金面でのメリットも考えられます。

                    
                             現場で技術開発に取り組む山口主任研究員㊨と諸熊担当

課題解決のためにPDCAを繰り返す
山口:開発は「水素—酸素バーナ」に対するお客様の不安を払拭することに加えて、既存のバーナのパフォーマンスと比べてもハイレベルな製品の供給を目指し、設計・試作・実験・評価のPDCAを地道に繰り返し進めてきました。例えば、水素には、天然ガスやプロパンガス等に比べて、大規模な爆発を引き起こすなど“危険性が高く取り扱い難いイメージ”がお客様にはあります。そこで、じっくり時間を費やして、小規模なものから徐々にスケールアップし、燃焼速度や燃料ガスの特性の違いによるバーナの設計を行いながら、安全性を高める面でも実験に実験を重ねました。この開発プロセスは、一見すると遠回りのようにも見えますが、結局のところ、この方法が一番早い開発の進め方であったと考えています。
  
                   
                                   水素-酸素燃焼による火炎の様子

お客様と社会に貢献できる企業を目指して
諸熊:様々な実験や検証を経て、「水素—酸素バーナ」の製品の型を固めることができました。当製品は支燃性ガスとして酸素を100%に設定したものから、適宜富化するものまで、お客様の設備・工業炉等に応じたカスタマイズが可能です。今後は、実際にお客様と相談・協力・連携しながら、監視カメラ等を利用して、耐久性のテスト・品質の評価を進め、それぞれの業種で求められるものに見合うよう改良を重ねていきたいと考えています。

山口:最近は供給側の企業の規模を問わず、炭化水素燃料の不使用等のようにカーボンニュートラルに貢献する素材や技術を使った製品が選ばれる傾向が強まっています。このような製品を使用することは、付加価値の向上だけではなく、企業のイメージアップにもつながります。カーボンニュートラルに向けた取り組みは世界中で大きく進んでいます。当社では、工業炉のCO2排出量削減に大きく寄与する「水素—酸素バーナ」をはじめとして、今後も蓄積された技術・ノウハウやアイデアを応用して、カーボンニュートラルな社会に貢献できる商品の開発を続けていきます。

※同製品は2024年9月に一般社団法人環境共創イニシアチブの先進設備・システムの補助対象設備に採択されました。
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ニュースリリース「工業炉向け水素-酸素バーナ開発」