超低温技術の強みを生かした「NMR装置用ヘリウム再凝縮装置」

超低温技術の強みを生かした「NMR装置用ヘリウム再凝縮装置」

ヘリウム供給は100%を海外からの輸入に頼っているため、生産国の諸事情と需要状況に起因した、不安定な需給状況が続いています。特に3年前に起こったヘリウム不足の影響は幅広い業種に及び、超低温分野の研究・開発を行う企業や研究機関においては、安定したヘリウムの確保が事業継続の観点から非常に重要な課題になっています。そこで効果を発揮するのが2024年4月から新たに当社で開発し販売を開始した「NMR装置※用ヘリウム再凝縮装置」です。今回は同装置の特長を解説しながら、装置の有用性をお伝えします。
※磁場中で化合物の分子構造や物性を分析することができる装置


ヘリウム再凝縮装置「TRG-305DS」

ヘリウム再凝縮装置とは?
そもそもヘリウム再凝縮装置とはどのような機能なのでしょうか?液体状のヘリウムの温度(沸点)は-269℃です。NMRの寒剤として利用される超低温の液体ヘリウムは装置外部からの侵入熱により気化し続けており、そのままでは外部に放散されてしまいます。そこで、装置内で気化したヘリウムを冷凍機で再凝縮して、液化ヘリウムに戻すことで、ヘリウムの無駄な消費を抑えることができるようになります。これがヘリウム再凝縮装置の機能です。産業ガスメーカーの当社においては、超低温機器分野において長年の実績と培った技術を背景に、高効率なヘリウム再凝縮を実現しています。
ところで、寒剤としての液体ヘリウムは何に利用されているのでしょうか?主に超電導マグネットを冷やすために使用されており、超電導マグネットは液体ヘリウム温度域まで冷やすことによって電気抵抗がゼロとなり、大電流を流すことが可能となるため、とても強力な磁力が得られます。この特性を利用して、NMR装置や医療用のMRI装置、リニアモーターカーなどに広く活用されています。


「NMR装置用ヘリウム再凝縮装置」の特長は?
当社で開発した装置の特長は①「設置場所を選ばない」、②「高効率な再凝縮能力」、③「ゼロボイルオフ」の3つで、それぞれを説明します。まず1つ目の「設置場所を選ばない」です。
本装置は主にラボレベルの室内使用を想定した設計になっています。しかし、開発当初は装置の設置に必要な天井の高さが3mを超え、一般的な室内では天井との干渉が発生する状況でした。高さをラボサイズレベルまで抑えるために様々な検討を行い、そこで採用されたのがGM冷凍機でした。従来のパルスチューブ冷凍機は低振動ではありますが、設置条件に制約があるため、必然的に装置全高が天井を超えるレベルになっていました。これをGM冷凍機に変えることで、設置条件が緩和され、装置の高さを抑えることで、一般的な室内の天井高である3m以内に抑えることができるようになりました。さらに、測定に有害なノイズの発生を独自の除震機構を開発、搭載することでクリアしました。また、開発における実証テストでは、NMR装置国内トップシェアの“ブルカー社”と連携して検証を進めた結果、同社NMR装置の周辺機器として推奨を得ることができました。


※仕様は予告なく変更する場合がございます。




気化したヘリウムの全量再凝縮が可能
次に2つ目の「高効率な再凝縮能力」です。ラボレベルのNMR装置は400MHz~600MHzクラスの装置が多く使用されております。これらの装置は1日当たり約0.1~0.3リットルの液体ヘリウムが気化しますが、TRG-305DSは1日当たり約1リットルのヘリウムを再凝縮する能力を有しております。NMR装置は運転を停止しないことが重要なため、液体ヘリウムの供給不安はなんとしても避けたい事象です。長期的には供給についての危惧を拭い難いヘリウムにおいて、再凝縮装置は継続的な運転を担保する保険のような存在でもあります。また超電導マグネット等の汎用再凝縮装置として、当社では日量1ℓ~18ℓクラスの各種装置を取り揃えているほか、プラントレベルのヘリウム回収精製液化装置も取り扱っています。

最後の特長3つ目は「ゼロボイルオフ」です。従来の再凝縮装置では、運転中に補充される常温のヘリウムガスが熱負荷となり液化ヘリウムにロスが発生していました。この状況に対して、当社の再凝縮装置は気化したヘリウムガスを再凝縮し、液体ヘリウムとして外部への放散無しで自動的に装置内に戻すゼロボイルオフとしています。当社の再凝縮装置は蒸発ロスが発生しないことに加え、トランスファー作業の必要がないため、NMR装置の永続的なご使用に係る安全・安心に寄与致します。
本再濃縮装置はヘリウムをはじめ、各種の産業ガスならびに超低温関連機器を長年取扱ってきた当社だからこそご提供できる品質と使いやすさが最大の魅力です。