大陽日酸における事業の根幹は空気分離装置を中心としたプラント技術です。当社の主力製品であるエアセパレートガス(窒素、酸素、アルゴン)は空気を原料に空気分離装置で製造されたものです。今回はその中でもメインの技術である“深冷分離技術”について、当社のつくば開発センター 深冷分離開発部に所属する櫻井勇斗さん(以下、櫻井)、倉内健人さん(以下、倉内)、高柳翔太さん(以下、高柳)、青田怜那さん(以下、青田)の若手技術者4名にお話を聞きました。
空気分離装置(中央)
深冷分離技術とは?
Q1:そもそも深冷分離とはなんですか?
櫻井:深冷分離とは、気体を極低温に冷却し、それぞれのガスに分離することからそう呼ばれています。エアセパレートガスを製造する深冷分離は、端的に言えば空気を液化して蒸留する技術です。空気の中に含まれる、窒素、酸素、アルゴンはそれぞれ沸点が異なり、窒素−195.8℃、酸素−182.9℃、アルゴン−185.8℃です。この沸点の違いを利用して、気体をそれぞれ分けていきます。
倉内:ただ、液化して蒸留すると言っても、一度で分かれるわけではありません。蒸留塔と呼ばれる装置の中で、液体と気体を連続的に接触させることによって塔上部に窒素を、塔下部に酸素を濃縮します。またアルゴンはその中間部に濃縮します。深冷空気分離装置ではこのような蒸留塔を複数組み合わせて純度の高い製品を取り出しています。
青田:当社が創業した当時は、ドイツから輸入した分離装置を使用していましたが、その装置も深冷分離技術が活用されたもので、酸素を製造していました。その装置は現在、山梨事業所にある記念館に展示しています。
高柳:この深冷分離技術は、エアセパレートガスの製造にのみに使用される技術ではありません。 PET検査(がん診断)向け酸素18安定同位体の分離濃縮や、半導体を製造する際に必要となる材料ガスの精製方法としても利用されています。
櫻井さん㊧と倉内さん
国内ナンバーワンの空気分離装置メーカーとして
Q2:深冷分離技術を使った大陽日酸のプラントに関連する強みはなんですか?
櫻井:ASUの開発から設計、製作、建設、運転、ガスの品質保証(分析技術)まですべての技術を持っていることです。全国に多くの製造拠点を持つことに加え、つくば、山梨の開発部門と実際に ASUの設計・製造を行う、プラントエンジニアリングセンター(PEC)が比較的近く、情報交換や人材の交流が密接に行えることも技術をブラッシュアップしていく上で強みになりますね。
倉内:各セパレートガスに対して高純度を求めようとすると、どうしてもASUは大きくなっていきます。もちろん、大きさに合わせて、装置コストは増加していきます。高純度のガスを取り出すために、いかにプラントの大きさを抑えつつ、取り出すガスの純度を高めていくのか?という開発を行っています。少しずつ中身を変えながら、期待通りの純度になるかなど、素材も含めて、多面的に分析しながら、研究を進めています。
高柳:また、深冷空気分離装置は非常に大量の電力を消費するため、高効率な仕組みが求められています。このような観点においても、いかに電力量の消費を抑えながら、効率的にガスを取りだすか?という課題にも挑んでいます。以前、私はASUを使ってガスを生産する工場でも勤務していました。その際、やれることは全てやったとしても削減できるコストには限界がありました。しかし、ここでは、コスト削減効果のスケール感が大きいので、現場の手助けになるような技術開発をしっかりやっていきたいです。
青田:空気分離装置全体にかかる熱交換器など、内部機器の開発も当部で行っています。またプラントエンジニアリングセンター(PEC)、吸着技術を担う山梨事業所と連携しながら、空気分離におけるプロセス開発にも取り組んでいます。
高柳さん㊧と青田さん
よりサステナブルな空気分離装置を目指して
Q3:今後どのような研究・開発を行っていきたいですか?
櫻井:ASUは非常に大量の電気を消費します。将来のことを考えると、深冷分離技術による空気分離だけでなく、よりサステナブルな方法を探索することも必要だと考えています。そういった観点を念頭に置きながら、さまざまなアプローチを進めていきたいと思います。
倉内:安定同位体の18-酸素は深冷分離技術で積み上げてきた知見を応用した技術開発によるものです。空気分離装置を少しずつでもより良い方向に改善・改良することと併せて、分離対象を変えながら、培ってきた深冷分離技術を別なことに利用する研究も進めていきたいです。
高柳:今、半導体向けの特殊ガスの新しい製造方法の検討が盛んです。他部署からもっと良い製造方法ないかと問われた際に、深冷分離技術からアプローチしては?という話も出てきています。深冷分離技術は難しいガスの取り扱いにも適した技術なので、特殊ガスの分野にも積極的にアプローチしていきたいと思います。
青田:入社時は空気分離装置の設計・製造を行うPECに居ました。当時はエンジニアリング部署で各機器の基本仕様をシミュレーションによって計画していましたが、現在の部署に異動し、深冷分離技術の理論や、ASUに関連した様々な理論を学んだことによって、どの部分をどう変えたら目標とした設計に近づけることができるかを考えられるようになりました。今後、より効率的なASUの研究に取り組んでいきたいです。
業務中の様子