先端半導体デバイスの高性能化を支える過酸化水素ガス

先端半導体デバイスの高性能化を支える過酸化水素ガス

AIやスマートフォン、IoTなどの普及に伴って半導体デバイス(演算素子、記憶メモリなど)の需要が年々増加するなか、半導体デバイスメーカーは新たな製造ラインの拡充と半導体デバイス性能の向上を加速させています。半導体デバイスは主にシリコンウエハ上に半導体材料ガスを導入し、様々な種類の半導体薄膜を成膜させ、複雑な形状に加工することで形成されます。この精密な成膜プロセスには、半導体材料ガス自体もより高性能なものが求められています。そこで注目されているのが、当社が取り扱う米国RASIRC社(当社グループ会社)の過酸化水素ガスの供給ソースです。今回は半導体デバイスの高性能化を支える過酸化水素ガスと、その供給ソース「BRUTE® Peroxide」について、当社のイノベーションユニットRasircプロジェクトに所属する有村忠信プロジェクトマネジャー(以下、有村)と内藤一樹担当課長(以下、内藤)にお話を聞きました。

(2025年3月31日掲載)


内藤一樹担当課長㊧と有村プロジェクトマネジャー

Q1:はじめに、過酸化水素について教えてください。
内藤:皆さんがよくご存じのものでいうと、薬局で売られている消毒液としてのオキシドール。オキシドールの主成分が過酸化水素です。もう少し濃度が上がると、ヘアブリーチや歯のホワイトニング、漂白剤などにも使われていますね。この過酸化水素は洗浄力があるので、過酸化水素の水溶液(過酸化水素水)は、半導体業界でいうと半導体ウエハの洗浄にも使われています。半導体デバイスはこのウエハ上に半導体薄膜を成膜することで形成されます。この半導体ウエハは純度が99.9999%と非常に高純度であり、半導体デバイス製造時はウエハ表面にゴミひとつない状態を維持しておく必要があります。そのため、成膜前にはウエハ表面の清浄度を保つために過酸化水素水でのウエハ洗浄が必要になります。

有村:このウエハの洗浄には液体である過酸化水素水が使われますが、今回ご紹介する「BRUTE® Peroxide」はガス(気体)としての過酸化水素供給ソースであり、過酸化水素の濃度や使用目的が異なります。

 


有村プロジェクトマネジャー

利用シーンは身近なものから半導体製造まで
Q2:過酸化水素は、どこに、そしてどのように使われるのでしょうか?
有村:過酸化水素自体は様々なところで使われていますが、半導体製造に関連したことを中心にお話します。今回のガスとしての過酸化水素は、ウエハ洗浄ではなく主に成膜時に使用される半導体材料ガスとしてのご紹介になります。成膜とは、その名の通り「膜を生成する」ということです。半導体デバイスは、主にシリコンウエハ上に様々な半導体材料ガスを導入し酸化膜や窒化膜を形成し、不要な部分を取り除き複雑な形状に加工を行います。これらを繰り返すとウエハ上に希望の半導体デバイス構造が形成されるというわけです。 この成膜の工程(酸化膜を作る工程)には、水(H2O)や酸素ガス(O2)、オゾンガス(O3)などの酸化剤が広く使用されていますが、半導体デバイスの高性能化に伴い、近年ではより低温での成膜や膜質改善の効果が見込めるガスとして過酸化水素(H2O2)が注目されています。以前から、過酸化水素を用いれば良質な膜が作れることは知られていましたが、実際の製造プロセスでこれを高濃度のガスとして発生させ、安定供給することはとても難しい技術でした。

内藤:そこで当社のグループ会社である米国のRASIRC社は、高度な膜分離技術によって安全に、かつ高濃度・高純度な過酸化水素ガスを供給できる高濃度H2O2ガス供給装置「Peroxidizer®」を開発し、2020年から販売を開始しました。Peroxidizer®の発生させる過酸化水素ガスの濃度は既存の発生方法と比べると1,000倍以上もの高濃度化を実現しています。Peroxidizer®を用いた酸化膜の成膜においては、他の酸化剤と比較し優位な特性が得られたため、半導体装置メーカーや半導体デバイスメーカーから注目されました。Peroxidizer®は大流量、高濃度の過酸化水素ガスを供給できることから、主に工場の量産ライン向けの商材です。

 

供給ソースの小型化にも成功!
Q3:今回新たに扱うことになったBRUTE® Peroxideは、Peroxidizer®と比べどのように違うのでしょうか?
内藤:まず、過酸化水素を発生させるメカニズムが異なります。Peroxidizer®は、膜分離技術を応用して市販の過酸化水素水から高濃度の過酸化水素ガスと水蒸気の混合ガスを発生させます。一方でBRUTE® PeroxideはRASIRC社の高い精製技術により濃縮された高濃度の過酸化水素(液体)をRASIRC社独自開発の固体吸着材へ含侵させ、そこから蒸発した過酸化水素ガスを供給するものです。これにより供給濃度の安定性や安全性を向上させつつも、製品形状は非常に小型なボトル形状にすることができました。Peroxidizer®に比べ低濃度、定流量であるため、研究開発用途や少量生産工程に適しています。

有村:半導体工場のクリーンルームではなるべく装置面積を小さくしたいので、BRUTE® Peroxideのように小型で、既存の成膜装置に取り付けるだけでよい過酸化水素ガス供給ソースは使い勝手が良いと考えています。


BRUTE® Peroxideを説明する内藤担当課長

Q4:今後はどのような市場に拡販していく予定ですか?
内藤:AIやスマートフォン、IoTなどの普及に伴って、半導体デバイスの需要はますます高まっています。それも最先端世代といわれる、2〜3nm(ナノメータ)の微細構造が要求される半導体デバイスが必須となっています。このような超微細構造の形成には、より精度の高い成膜技術が必要であり、そのためには高性能化が実現できる新たな酸化剤が欠かせません。私たち大陽日酸グループが販売している過酸化水素ガスであれば、微細加工された表面にも均一な酸化膜を低温で成膜できるため、こうした市場ニーズの役に立つことは間違いありません。まずは先端半導体の開発・製造に取り組む半導体装置メーカーや半導体デバイスメーカーに拡販していくことが重要です。

有村:半導体以外の業界にも販路を広げていきたいと考えています。たとえば医療業界。医療検査用センサーの微細表面加工にも過酸化水素ガスが応用できます。過酸化水素ガスによりチップ表面を改質し、微細な立体構造組み立てが可能となります。このように、過酸化水素ガスを新領域へ展開していきます。